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とらがり

虎狩

中島 敦

「光と風と夢」1942(昭和17)年7月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,260 字 · 48 页

青空文庫

その日、私達の教練の教官、万年少尉殿が危く落馬しかけた話や、行軍の途中民家の裏庭に踏入って、其の家の農夫達と喧嘩したことや、斥候に出た四年生がずらかって、秘かに懐中にして来たポケット・ウイスキイの壜を傾け、帰ってから、いい加減な報告をした、などという詰まらない自慢話や、そんな話をしている中に、結局何時の間にか、少年らしい、今から考えれば実にあどけない猥談に移って行った。やはり一年の年長である四年生が主にそういう話題の提供者だった。私達は目を輝かせて、経験談かそれとも彼等の想像か分らない上級生の話に聞き入り、ほんの詰まらない事にもドッと娯しげな歓声をあげた。ただ、その中で趙大煥一人は大して面白くもなさそうな顔付をして黙っていた。趙とても、こういう種類の話に興味が持てないわけではない。ただ、彼は、上級生の一寸した冗談をさも面白そうに笑ったりする私達の態度の中に「卑屈な追従」を見出して、それを苦々しく思っているに違いないのだ。

話にも飽き、昼間の疲れも出てくると、めいめい寒さを防ぐために互いに身体をくっつけあいながら藁の上に横になった。私も横になったまま、毛のシャツを三枚と、その上にジャケツと上衣と外套とを重ねた上からもなおひしひしと迫ってくる寒さに暫く顫えていたが、それでも何時の間にかうとうとと睡って了った