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とらがり
虎狩
「光と風と夢」1942(昭和17)年7月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,260 字 · 48 页
その次第というのはこうだ。
三日程前の午過ぎ、友人に頼まれた或る本を探すために、本郷通りの古本屋を一通り漁った私は、かなり眼の疲れを覚えながら、赤門前から三丁目の方へ向って歩いていた。丁度昼休みの時間なので、大学生や高等学校の生徒や、その他の学生達の列が、通り一杯に溢れていた。私が三丁目の近くの、藪そばへ曲る横丁の所まで来た時、その人通りの波の中に、一人の背の高い――その群集の間から一際、頭だけ抜出ているように見えた位だから、余程高かったに違いない――痩せた三十恰好の、ロイド眼鏡を掛けた男の、じっと突立っているのが、私の目を惹いた。其の男は背が人並外れて高かったばかりではなく、その風采が、また著しく人目を惹くに足るものだった。古い羊羹色の縁の、ペロリと垂れた中折を阿弥陀にかぶった下に、大きなロイド眼鏡――それも片方の弦が無くて、紐がその代用をしている――を光らせ、汚点だらけの詰襟服はボタンが二つも取れている。薄汚ない長い顔には、白く乾いた脣のまわりに疎らな無精髭がしょぼしょぼ生えて、それが間の抜けた表情を与えてはいるが、しかし、又、其の、間の迫った眉のあたりには、何かしら油断の出来ない感じをさせるものがあるようだ。