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きょこうのはる
虚構の春
「文学界」1936(昭和11)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,586 字 · 108 页
僕は自分の感情を偽って書いてはいない。よく読んで見給え。僕の位は天位なのだ。君のは人爵に過ぎぬ。許す、なんて芝居の台詞がかった言葉は、君みたいの人は、僕に向って使えないのだよ。君は、君の身のほどについて、話にならんほどの誤算をしている。ただ、君は年齢も若いのだし、まだ解らぬことが沢山あるのだし、僕にもそういう時代があったのだから黙っていただけの話だ。君のこのたびの手紙の文章については、いろいろ解釈してみたが、『こんどだけ』という君の誇張された思い上りは許し難い。きっぱりと黙殺することに腹を決めたのだが、恰度今日仕事の机にむかって坐った時、ふと、返事でも書いてみるかという気になってこれを書いた。じたい、二十歳台の若者と酒汲みかわすなんて厭なものだと思っていたのだ。君は二十九歳十カ月くらいのところだね。芸者ひとり招べない。碁ひとつ打てん。つけられた槍だ。いつでもお相手するが、しかし、君は、佐藤春夫ほどのこともない。僕は、あの男のためには春夫論を書いた。けれども、君に対しては、常に僕の姿を出して語らなければ場面にならないのだ。君は、長沢伝六と同じように――むろん、あれほどひどくはないが、けれども、やっぱり僕の価値を知らない。