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きょこうのはる
虚構の春
「文学界」1936(昭和11)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,586 字 · 108 页
その傷が丹毒になり、二月入院しました。喧嘩しながら居眠るほど、酔っていた男を正気の相手が刃物で、而も多人数で切ったのですから、ぼくの運がわるく、而も丹毒で苦しみ、病院費の為、……おやじの残したいまは只一軒のうちを高利貸に抵当にして母は、兄と争い乍ら金を送ってくれました。会社は病気ではなく私傷による事故だからといって、十一月は給料をくれませんでした。また会社の人達は、ぼくをまるで無頼漢扱いにして皮肉をいう。まア止めましょう。いっそ、桜の花の刺青をしようかと思って居ります。私は子供じゃないんだ。所で、あなたに手紙を書きたかったのは、ぼくはもう文学を止めたいとおもう。それもなんら思想上のものではなしに、単に生活上の不便からです。京城にいるとか会社員をしている事は、いままで、なんら、悪条件と感じませんでしたが、こんどの事件があってからは、急にイヤになったのです。今日でも会社にでると殆んど、もう自分の時間がありません。負傷前は五六時間睡眠平均、または時に徹夜で読書、著述、(いやはや)また会社で小品みたいなものは書いたりしましたが、これからはイヤです。太宰さん、ぼくは東京に帰って、文学青年の生活をしてみたいのです。