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きょこうのはる

虚構の春

太宰 治

「文学界」1936(昭和11)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,586 字 · 108 页

青空文庫

ぶしつけ、ごめん下さい。どうやら君は、早合点をしたようだ。君は、ボオドレエルを掴むつもりで、ボ氏の作品中の人物を、両眼充血させて追いかけていた様だ。我は花にして花作り、我は傷にして刃、打つ掌にして打たるる頬、四肢にして拷問車、死刑囚にして死刑執行人。それでは、かなわぬ。むべなるかな、君を、作中人物的作家よと称して、扇のかげ、ひそかに苦笑をかわす宗匠作家このごろ更に数をましている有様。しっかりたのみましたよ、だあさん。ほほ、ほほほ。ごぞんじより。笑っちゃいかん! 僕は金森重四郎という三十五歳の男だ。妻もいることだし、ばかにするな。いったい、どうしたというのだ。ばか。」

「拝啓。益々御健勝の段慶賀の至りに存じます。さて今回本紙に左の題材にて貴下の御寄稿をお願い致したく御多忙中恐縮ながら左記条項お含みの上何卒御承引のほどお願い申上げます。一、締切は十二月十五日。一、分量は、四百字詰原稿十枚。一、題材は、春の幽霊について、コント。寸志、一枚八円にて何卒。不馴れの者ゆえ、失礼の段多かるべしと存じられ候が、只管御寛恕御承引のほどお願い申上げます。師走九日。『大阪サロン』