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へび
蛇
「中央公論 第二十六年第一号」1911(明治44)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,073 字 · 23 页
そうすると、あんな偽善の話は厭だと云ったそうである。
その事を聞いてから、御隠居は詞少なに、遠慮勝ちになった。話されないとなると話して見たいように感ずるのが、人情の常である。それを我慢する。我慢するのが癖になって、外の話のしたいのをも我慢する。
穂積家は沈黙の家になった。
ここまで話を聞いた時、さっき清吉爺いさんの出て来た、「和気日融々」と書いてある襖が、またすうと開いた。
見れば薩摩飛白に黒絽の羽織を着流した、四十恰好の品の好い男が出た。神経の興奮しているらしい声で、こう云った。
「わたくしは当家の主人で、穂積千足と申すものです。先生がお泊り下さいましたに、御挨拶にも出ずにいて、突然お席に参ったのですから、定めて変な奴だと思召すでしょうが、全く二週間ほど前から気分が優れませんで、休んでいました。県庁からの指図で、郡役所から通知のありました時も、忌中ではあるし、お断り申そうかとも考えましたが、近来不為合せな事が続きまして、この老人が大層心寂しく存じている様子でして、名高い学者の方に泊ってお貰い申したら、何か心得になるような事が伺われるかも知れないと申すのです。