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たこのごときもの
蛸の如きもの
豊島 与志雄
「改造」1950(昭和25)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,085 字 · 21 页
――どうせ大した金高ではあるまい。
「わたしは今晩、最後の仕上げをしましたよ。金を渡しておいて、ちと恥かしかったが、どこかへ行ってみようか、一日か半日、温泉へでも遊びに行こうか、とそう言って誘ってみますと、百合子、ぱっと紅くなりました。それから、どういうものか、縮らした髪を片手でかきあげる真似をして、あの白い額の、細おもての顔を、きりっと引きしめ、眼をそらしながら、言うことがいいじゃありませんか。わたくし、そんな女ではございません。ねえ、どうです。わたくし、そんな女ではございません。」
これじゃあ、甘っちょろくて話にならん。高木老人と貞夫との親子は、顔立ちがよく似ているし、高木老人の振舞いも訝しかったろうし、百合子は恐らく、事の真相とまでは分らなくとも、なにか怪しいと感づいていたに違いない。女はこんな時、巧みな芝居をするものだ。貞夫にも老人にもなんとも言わず、黙っていて、最後にただ一言、わたくしそんな女ではございません。
それにしても、おかしいのは高木老人の話しっぷりだ。初めから、如何にも嬉々として楽しそうだった。最後の仕上げの件にしても、聊か色っぽすぎる。