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はちがだんごをこしらえるはなし

蜂が団子をこしらえる話

寺田 寅彦

「解放」1921(大正10)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,564 字 · 8 页

青空文庫

枯れるかと思ったら存外枯れもしないで、今年の春の日光を受けるとまた正直に若芽を吹き出して来た。今にまた例の青虫が出るだろうと思って折々気をつけて見るが、今年はどうしたのか、まだあまり多くは発生しない。その代り今年はこれと変った毛虫が非常に沢山に現われて来た。それは黒い背筋の上に薄いレモン色の房々とした毛束を四つも着け、その両脇に走る美しい橙紅色の線が頭の端では燃えるような朱の色をして、そこから真黒な長い毛が突き出している。これが薔薇のみならず、萩にもどうだんにも芙蓉にも夥しくついている。これは青虫ほど旺盛な食慾をもっていないらしいが、その代り云わば少し贅沢な嗜好をもっていて、ばらの莟を選んで片はしから食って行くのである。去年はよく咲いたクリーム色のばらも今年はこのためにひどく荒らされてしまった。子供の時分に田舎の宅で垣根いっぱいに薔薇が植わっていたが、ついぞこんなに虫害を受けた事を記憶しない。都会の空気が濁っているために植物も人間と同じようにたださえ弱くなっているその上にこう色々な虫にいじめられては、いまにこうした植物は絶滅するのではないかと思う事もある。