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はちがだんごをこしらえるはなし

蜂が団子をこしらえる話

寺田 寅彦

「解放」1921(大正10)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,564 字 · 8 页

青空文庫

同じ薔薇の上に何物かを物色していた濃褐色の蜂が、突然ほとんど何の理由とも分らず、またなんらの予備行為もなく、いきなりこの蜥蜴の背に飛びかかった。そして右の後脚の附根と思う辺を刺したように見えた。

しかし蜥蜴はほとんど何事も起らなかったかのように、じっとしたまま、身じろき一つしなかった。そして数秒の後にまたのそのそと這い出して一寸くらいも歩いたかと思うと立止って小さな眼を光らせていた。

どういう訳で蜂がこのような攻撃をしたか、私には少しも見当が付かなかった。人間ならば商売敵という言葉で容易に説明さるべき行為の動機が、この場合に適用するかどうか、それは全く分らない。とにかくこの活劇は私に色々な事を聯想させたが、しかし自然の事実からは人間の都合のいいモラルは必然には出て来なかった。

同じ薔薇の反対の側へ廻ってみると、そこにも一疋の蜂が居た。そして何かしらある仕事をしているのであった。

それは、さっき蜥蜴を攻撃したと同じ蜂かどうか分らないが、とにかく同じ種類のものであった。広い葉の上に止って前脚で小さな毛虫らしいものをしっかりつかまえて、それをあの鋭い鋏のような口嘴でしきりに噛みこなしていた。