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くも
蜘蛛
甲賀 三郎
「文学時代」1930(昭和5)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,314 字 · 22 页
おれはSを殺せばこんな蜘蛛の研究はやめるつもりだった。Sの死によって教授を失った大学はきっとおれを迎えにくるだろうと思っていたが、大学からはなんともいってこない。残念ではあるが、おれはなんだか蜘蛛の研究がやめられないような気がする。
×月×日
大学からはなんの音沙汰もない。おれはまたせっせと蜘蛛の研究をはじめだした。
×月×日
今日は熱帯産の毒蜘蛛の雌雄が手にはいった。
×月×日
おれはなんだか蜘蛛に呪われているようだ。飼ってある蜘蛛どもが、妙に探偵のような眼つきをしておれをにらんでしかたがない。
×月×日
おれは呪われている! あの熱帯産の毒蜘蛛がSの亡霊だとは気がつかなかった。あの眼をみろ、あの眼はSがこの研究室の脚下に血まみれになってよこたわっていたときの眼だ。あいつは毒蜘蛛になったのだ!
×月×日
負けてたまるものか。たかのしれた毒蜘蛛に。SもSだ。殺されるような意気地なしだけあって、蜘蛛になりさがるとは。よし来い。おれは貴様とたたかうぞ。いじめていじめ抜いてやるぞ。だがあの眼つきは、ああおれはこのごろ蜘蛛がおそろしくなってきた。眼だ眼だ。