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みかん

蜜柑

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,307 字 · 25 页

青空文庫

「申せずばよい、だが源四郎」頼宣はたしかめるような調子で、

「そのほうの主人は誰だ」

「……はっ」

「誰がどのように申そうとも、そのほうに奉公のまごころがあり、また主人がそのほうを役にたつべき男とみているからは、いささかも世に恥ずるところはないはずだ。それとも、……余の言葉よりその評判をする者のほうがそちには重いか」

源四郎は言句につまった。

「一徹者め」

頼宣は笑いながら云った。

「そのように眼先のことでとりのぼせるから、人にとかくの評判をされるのだ。一徹もよいが程にせぬといかん、よいからもうさがれ」

源四郎の胸は感動でふるえた。

――御主君はじぶんを知っていて下さる。

直次の言葉がどんなに堪えがたいものであったにしろ、頼宣の一言は源四郎を心の底からたちなおらせて呉れた。

――そうだ、誰がなんといおうと、じぶんの御奉公がひとすじであるかぎり恥ずるところはない、しかも御主君はじゅうぶんにじぶんを認めていて下さるのだ、じぶんはこの君のために死ねばよいのだ。

そう心がきまると、直次の頑迷な眼をみかえすことが出来たようにさえ思えて、源四郎の心はあたらしい力と勇気とでいっぱいになった。