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みかん
蜜柑
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,307 字 · 25 页
七月二十日、頼宣は参覲のいとまが出て帰国の途にのぼった。お太刀脇として扈従する源四郎にははじめての帰国である。彼はあやまちのない勤めをしようとして一心だった。中小姓のときとはちがって、主君側近の奉公だから、気を労することも一倍であるがはりあいも多い、おのれの胸板を紀伊五十五万石の楯にしたような気持で、源四郎は旅路の日夜を力強く扈従して行った。
三河ノ国へはいると大風が吹きだした。ほんらいは三州吉田から伊勢の松坂へ渡海するのが順だったけれども、その風ではとても船出はおぼつかないので、行列はそのまま尾張の熱田へすすめられた。
熱田で尾張家の馳走をうけながら二日ほど待ったが、風はすこしも勢をゆるめない。すると頼宣から、
――これしきの風を待つことはない、明朝は船を出すように。
という命令がでた。
そのとき源四郎は御前にいなかったが、ようすを聞くとお伽の藪七郎左衛門の進言でそういうことになったのだという、三浦長門守(家老職)からいろいろ諫止したけれども、頼宣はどうしても船出をすると云って肯かない、みんなもてあましているということだった。
七郎左衛門勝利というのは藪三左衛門の二男である。