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はえ

蠅

海野 十三

「ぷろふいる」1934(昭和9)年2月号~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,774 字 · 40 页

青空文庫

この無人境で、妻を殺したのは誰だッ」

そのとき、入口の扉がコツコツと鳴った。誰かがノックをしているのだ。

「あワワ……」

彼は身を翻すと、部屋の隅に小さくなった。まるで蜘蛛の子が逃げこんだように。

コツ、コツ、コツ。

又もや気味の悪い叩音が聞える。

彼は死んだようになって、息をころした。

そのとき扉の外で、ガチャリと音がした。鍵の外れるような音であった。そしてイキナリ、重い扉が外に開いた。その外には詰襟の制服に厳しい制帽を被った巨大漢と、もう一人背広を着た雑誌記者らしいのとが肩を並べて立っていた。

「これがその男です」と、制服の監視人が部屋の中の彼を指して云った。「妻を殺して、窓の外にその死体を埋めてあるように思っている患者です。この男は何でも前は探偵小説家だったそうで、窓から蠅が入ってくると、それから筋を考えるように次から次へと、先を考えてゆくのです。そして最後に、自分が夢遊病者であって、妻を殺してしまったというところまで考えると、それで一段落になるのです。そのときは、いかにも小説の筋が出来たというように、大はしゃぎに跳ねまわるのです。……強暴性の精神病患者ですから、この部屋はこれまでに……」