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はえ

蠅

海野 十三

「ぷろふいる」1934(昭和9)年2月号~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,774 字 · 40 页

青空文庫

なぜそれが断言できるかというと、この蠅どもには、普通の蠅に見受けるような黴菌を持っていない。極めて黴菌の種類が少い。大抵なら十四五種は持っているべきを、たった一種しか持っていない。これは大いに不思議です。深窓に育った蠅だといってよろしい」

「深窓に育った蠅か? あッはッはッはッ」と捜査課長が謹厳な顔を崩して笑い出した。

「その一種の黴菌とは、一体どんなものですか」と帆村は笑わない。

「それが――それがどうも、珍らしい菌ばかりでしてナ」

「珍らしい黴菌ですって」

「そうです。似ているものといえば、まずマラリア菌ですかね。とにかく、まだ日本で発見されたことがない」

「マラリアに似ているといえば、おお、あいつだ」と帆村はサッと蒼ざめた。「いま大流行の奇病の病原菌もマラリアに似ているというじゃないですか。最初はマラリアだと思ったので、マラリアの手当をして今に癒ると予定をつけていたが、どうしてどうして癒るどころか、癒らにゃならぬ日には、その病人の息の根が止まっていた。では、あの蠅の持っている黴菌というのが、あの奇病を起させたのじゃないですか」

医学士は黙っていた。その答えは彼の領分ではなかったから。