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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

それを黙って拾うてくるんやと、こないな話だすな。そやさかい向うの家の仁に顔を合わさしまへん」

「ずいぶん変った家ですね。――とにかくこれから一つ行ってみましょう」

そういっているところへ、電話のベルがけたたましく鳴りだした。消防手は素早く塔上の小室に飛びこんで、しきりに大声で答えていた。それは同じくこの臭気に関するもののようであった。それは消防手が再び帆村の前に現われたとき明白になった。

「――いま警察から電話が懸ってきましてん。この怪ったいな臭がお前とこから見えてえへんか云う質問だす。こら、なんか間違いごとが起ったんですなア。やあえらいことになりましたなあ」

旅行中の貼り札

帆村はその足で、すぐさま奇人館の前に行った。

なるほど、それは実に奇妙な建物だった。よく病院の標本室に入ると、大きな砂糖壜のような硝子器の中に、アルコール漬けになって、心臓や肺臓や、ときとすると子宮などという臓器が、すっかり色彩というものを失ってしまって、どれを見てもただ灰色の塊でしかないというのが見られる。この奇人館はどこかそのアルコール漬けの臓器に似ていた。

灰色の部厚いコンクリートの塀、そのすぐ後に迫って、膨れ上ったような壁体でグルリと囲んだ函のような建物。