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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
そのときだった。家の外でゴトゴトジンジンと音が聞こえてきた。それは自動車のエンジンが懸ったのに違いない。自動車! 帆村はハッと気がついた。そうだ、家の裏口に自動車が停っているのを見たっけ。
「うん、失敗ったッ」
帆村の叫んだときはもう遅かった。北側の窓のところに駈けつけてみると、目の下に自動車は静かに動きだしたところだった。裏口の木戸が開かれている。誰かその木戸から出ていって自動車にのったに違いない。そして帆村は見た。その幌型の自動車の運転台に、黒い服を身にまとった人物が腰をかけていたのを。
その人物こそ、さっき二階で、糸子をカーテンのなかに引ずりこんだ怪人に相違なかった。彼はいま自動車にソッとうちのり、何方へか逃げようとしているのだ。黒い服の人物は何者? 不幸にして帆村は、彼の後姿を肩のあたりにだけ認めたばかりであって、怪人物の顔を見ることはできなかった。
しかし彼こそ、恐るべき脅迫状の送り主「蠅男」なのではあるまいか。いや、それともこの家の主人である池谷医師でもあったろうか。いずれにしても帆村は、その自動車に乗った人物を逃がしてはならないと思った。