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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

有馬では、警察からまだ何の手配も出ていなかった。手配の電話が懸って来たのは、帆村が大阪への電話を申込んだその後からだった。手配の紙片が、それでも誰かに拾われたことか判った。しかしこうなってはすべてあとの祭りだった。なにしろ手配の自動車は山峡に落ちているのだから。

リンリンリンと電話が懸ってきた。駐在所の警官が出た。

「ああ村松検事どのでございますか。はア帆村さんはいらっしゃいます」

帆村は疲れを忘れて、電話口へ飛びついた。彼は村松検事に、今日の顛末を手短かにのべて、盗まれた三輪車と蠅男の手配をよく頼んだ。そして電話が切れるとグッタリとして、駐在所の奥の間に匍いこむなり、疲れのあまり死んだようになって睡った。樽の上で踊った長吉もお招伴をして、帆村の側らにグウグウ鼾をかいた。それから何時間経ったか分らないが、帆村は突然揺り起された。

「また村松検事どのから、お電話だっせ」

帆村は痛む手足のふしぶしを抑えながら、電話口に出た。そのとき彼は、愕きのあまり目の覚めるような知らせを、村松検事から受けとった。

「ええッ、本当ですか。今日の夕刻、鴨下ドクトルが奇人館にひょっくり帰ってきたんですって? ほほう、貴方はもうドクトルが永久に帰ってこないと仰有っていましたのにねエ。