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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

帆村は厳然たる自信をもって、帳場氏に命令するようにいった。そして彼は真先にたって、エレヴェーターのなかに躍りこんだ。帳場氏も、いまは帆村の言葉にしたがってついてゆくより外に仕方がなかった。

エレヴェーターを四階で停めて、帆村は大川主任のところへ行った。そして、一部始終を手短かに話し、主任の応援と命令とを乞うた。

「ええッ。蠅男がこのホテルに入りこんどる。それはほんまかいな。ほんまなら、こらえらいこっちゃ」

部長の顔色もサッと青褪め、すこぶる緊張した。

糸子の部屋には一人の警官を置いて、あとの三人は、急いで三階に駈け下りた。そして目ざす井上一夫の部屋第三三六室に近づいていった。

いざとなれば、たとい留守にしても、蠅男のいた部屋を開けるというのは、たいへん覚悟の要ることだった。三人はめいめいに腋の下から脂汗を流して、錠前の外れた扉に向って身がまえた。帆村はソッと扉を押した。

そして素早く手を中に入れて、電灯のスイッチ釦を押した。パッと室内灯がついた。

三人は先を争って、部屋の中を見た。

「ウム、あるぞ、トランクが……」

部屋のなかには、誰の姿も見えず、ただ大きなトランクだけがポツンと置き放されてあった。