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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

儂は云わん、知りたければ塩田律之進に聞け」

「えッ、塩田律之進というと、アノ鬼検事といわれた元の検事正塩田先生のことですか」

村松検事が愕いて横合いから出てきた。

「そうじゃ、塩田といえば彼奴にきまっとる。あれは儂の昔からの友人じゃ」とドクトルはジロリと一同を見まわし、

「それに儂は塩田と約束して、これから堂島の法曹クラブに訪ねてゆくことになっとる。心配な奴は、儂について来い。しかし邪魔にならぬようについて来ないと、遠慮なく呶鳴りつけるぞ」

あの有名な塩田先生の友人と聞いては、検事も署長も、大タジタジの体であった。なかにも村松検事は、塩田先生の門下の俊才として知られていた。それで彼は、この上、先生の友人である鴨下ドクトルを警官たちが怒らせることを心配して、

「じゃあドクトル、塩田先生にはしばらく御無沙汰していましたので、これから一緒にお伴をしてもいいのですかネ」

「なんじゃ、貴公がついて来るというのか。ついて来たけりゃついてくるがいい。しかし今もいうとおり、邪魔にならぬようにしないと、この洋杖でなぐりつけるぞ」

奇人館の主人は、なるほど奇人じみていた。検事はそれをうまくあしらいながら、署長たちに断りをいって、ドクトルのお伴をすることになった。