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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

絨毯の上に、大きな人間の身体が血まみれになって倒れているのが明るい電灯の下によく見えた。彼はドキンとして、腹の中から自然に声がとび出した。

「おう、人殺しだッ。皆さん早く来て下さいッ」

引かれゆく殺人検事?

電話で知らせたので、警察からは係官が宙をとんで駈けつけた。

惨劇の室内に入ってみると、そうも広くないこの室は、なまぐさい血の香で噎ぶようであった。

塩田先生は、脳天をうち砕かれ、上半身を朱に染めて死んでいた。これが曾て、鬼検事正といわれ京浜地方の住民から畏敬されていた塩田律之進の姿なのであろうか。それはあまりにも悲惨な最期だった。

係官の取調べが始まった。

塩田先生が殺害された当時、この室のうちに誰がいたか。

それは外でもない。村松検事只一人だったことを証明する者が沢山居た。

ボーイも証言した。鴨下ドクトルも、もちろん同意した。階下の事務所にいて、塩田先生のところへ電話をかけたボーイ長もそれを否定しなかった。鴨下ドクトルが手洗所に入り手洗所から出てくるのをみていた、女事務員たちの中にも、それに異議をいう者がなかった。

「どうです、村松さん。これについて何か云いたいことがありますか」