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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

彼女は素早く身辺を見廻し、机の上に載って居た亡き父の肖像入りの額面を取上げるより早いか二人の方に駆け寄り蠅男の顔面目掛けて発止と打ち下ろした。

「うむッ。――」

と蠅男は呻り声を挙げ、帆村の背後に伸びようとした鉄の爪がわなわなと虚空を掴んだ。

「糸子さん、危いからどいていらっしゃい」

帆村は糸子に注意をした。そこに一寸の隙があった。それを見逃すような蠅男ではなかった。

「えいやッ――」

と蠅男は腹の上に乗っていた帆村を下から座蒲団か何かのようにどんと跳ね飛ばした。

あッと云う間に帆村は宙を一転して運よく寝台の上に叩き付けられたが、若しそこに柔い寝台が無かったら帆村の両眼はぽんぽん飛び出していたかも知れない。

帆村はくらくらする頭を押えて、撥人形のように寝台を飛び降りた。この時素早く起き直った蠅男は右手を伸べて傍らのガラス窓を雨戸越しにバリバリと破り、その穴から化け蝙蝠のようにヒラリと外へ飛び出した。

帆村が続いて外に飛び出して見ると、蠅男は何処へ行ったものか影も姿もなく、戸外には唯ひっそり閑とした黒暗暗たる闇ばかりがあった。

帆村の奇略

その翌朝のことであった。