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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

帆村はいろいろと彼女を慰めることにひと苦労もふた苦労もしなければならなかった。

実は帆村は、まだそれ以上の蠅男の凶器を知っていた。それはその抜け腕の或るところに大豆が通り抜けるほどの穴が腕に沿って三、四個所も明いていたが、ここには元、鉄の棒が入っていたのだ。その棒は彼が拾ってもっていた。あの宝塚の雑木林の中で拾った先端にギザギザのついたあの棒である。あのギザギザは、蠅男が左腕を長く前に伸ばすときに、ちょうど折畳式の写真機の脚をのばすような具合に腕の中からとび出してくる仕掛になっていることに今になって気がついたのである。あの林の中で、蠅男は不注意にも、あれの脱けおちたのに気がつかなかったのだった。しかしあの鉄の棒を拾ったときに、まさかこんな奇怪なカラクリが蠅男の腕にあろうとはさすがの帆村探偵も気がつかなかった。考えれば考えるほど恐ろしい怪物だった。

一体このような恐ろしい怪物がどうして生れたんだろう? それはちょっと解くことのできない深い謎だった。

帆村は蠅男の左腕を前に置いて、ジッと深い考えに沈んだ。それからそのいつもの癖で、彼はやたらに莨を吸って、あたりに莨の灰をまきちらした。