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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
若き二人をドクトルの部屋にやることがなんとなく非常に不安になってきた。といって、呼ばれもせぬ彼が、後から追いかけてゆくのも変である。帆村はイライラしながら、全身の注意力を耳に集め、なにか階上から只ならぬ物音でも起りはしないかと、扉のかげに寄り添い、聞き耳たてていた。
一分、二分と経ってゆくが、何の物音もしない。これは自分の取越苦労だったかと、帆村が首を傾けた折しも、「帆村はん。先生が二階でお呼びだっせ。すぐ会ういうてはります」
と、三度雇い人が、室内に入ってきた。帆村はハッと思ったが、強いて平静を装い、先に案内に立たせ、二階へ上っていった。
「よう、帆村荘六君か。大分待たせて、すまんかったのう。さあ、こっちへ――」
と、黒眼鏡をかけ、深い髯の中に埋った鴨下ドクトルの顔が、階段の上で待っていた。帆村はドクトルのその声の隅に、何処か聞き覚えのある訛りを発見した。
ドクトルは帆村を案内して、書斎のなかに導き入れた。帆村はその部屋の中を素早く見廻して、先客である筈の二人の若き男女の姿を求めたが、予期に反してカオルの姿も山治の姿も、そこには見えなかった。
ドクトルは入口の扉をガチャと締めながら、