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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

「うむ、こら脅迫状や。二十四時間以ないニ、ナんじの生命ヲ取ル。ユイ言状を用意シテ置け。蠅男。――へえ、蠅男?」

「蠅男いうたら、お父つぁん、一体誰のことをいうとりまんの」

「そ、そんなこと、俺が知っとるもんか。全然知らんわ」

「お父つぁん。その新聞の中に、蠅の死骸が一匹入っとるの見やはった?」

「うえッ、蠅の死骸――そ、そんなもの見やへんがナ」

「そんなら封筒の中を見てちょうだい。はじめはなア、その『蠅男』とサインの下に、その蠅の死骸が貼りつけてあったんやしイ」

総一郎は封筒を逆さにふってみた。すると娘の云ったとおり、机の上にポトンと蠅の死骸が一匹、落ちてきた。それはぺちゃんこになった乾枯びた家蠅の死骸だった。そして不思議なことに、翅も六本の足もりとられ、そればかりか下腹部が鋭利な刃物でグサリと斜めに切り取られている変な蠅の死骸だった。よくよく見れば、蠅の死骸と分るような、変った蠅の木乃伊めいたものであった。

この奇怪な蠅の死骸は、果して何を語るのであろうか。

籠城準備

――二十四時間以ないニ、ナんじの生命ヲ取ル。ユイ言状を用意シテ置け。――

それだけが、活字の上に赤鉛筆で丸が入れてある。