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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

「わたくしもよくは存じません。ただ手紙のなかには、(自分の研究もやっと一段落つきそうだ)という簡単な文句がありました」

「研究というと、どういう風な研究ですか」

「さあ、それは存じませんわ」

「この家を調べてみると、医書だの、手術の道具などが多いのですよ」

「ああそれで皆さんは父のことをドクトルと仰有るのですね」

女はすこし誇らしげに、わずかに笑った。

そのとき正木署長が、検事の傍へすりよった。

「ええ、……緊急の事件で、ちょっとお耳に入れて置きたいことがありますんですが、いま先方から電話がありましたんで……」

「なんだい、それは――」

廊下へ出ると署長は低声で、富豪玉屋総一郎氏が今夜「蠅男」に生命を狙われていることを報告し、只今それについて玉屋から、どうも警察の護衛が親切でないから、司法大臣に上申するといってきた顛末を伝えた。

村松検事は署長に、その脅迫状を持っているなら見せるように云った。

署長は、お安い御用といいながら、ポケットを探ったが、どうしたものか先刻預って確かにポケットに入れたはずの封筒が、何処へ落としたか見当らないのであった。

「どうしたんやろなア、確かにポケットに入れとったのじゃが――ひょっとすると階下の大広間へ忘れてきたのかしらん。