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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

手おくれになったら、これは後から言訳がたちまへんさかいな」

署長は、ドクトル邸の燃える白骨事件で、黒星一点を頂戴したのに、この上みすみすまたたどんを頂戴したのでは、折角これまで順調にいった出世を躓かせることになるし、住吉警察署はなにをしとるのやと非難されるだろう辛さが、もう目に見えていた。彼は全力を挙げて、この正体の知れぬ殺人魔と闘う決心をしたのであった。しかし事実、彼はいくぶん焦りすぎているようであった。

「ああ、そうかね」村松検事はそういってジロリと眼玉を動かした。「じゃ、そうし給え。――」

「じゃあ、そうします。――オイ、二、三人、一緒に行くのやぜ」

村松検事は、正木署長たちがドヤドヤと出てゆく後姿を見送りながら、帆村探偵の方に声をかけた。

「オイ君。君は、ああいうチャンバラを見物にゆく趣味はないのかネ」と、正木署長の一行についてゆかないのかを暗に尋ねた。

帆村は、寝衣の上に警官のオーバーという例の異様な風体で、さっきから二枚の脅迫文をしきりと見較べていた。

「チャンバラはぜひ見たいと思うのですが、僕は頭脳が悪いので、そういうときにまず映画台本をよく読んでおくことにしているんでしてネ」