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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

女だから蠅男でないとは云い切らぬ方がよくはありませんか。それよりも、早くそのフランス製の白粉の女を探しだして、それが蠅男ではないという証明をする方が近道ですよ」

「ウム、なるほど、なるほど」

検事は、孫の話を聴く祖父のように、無邪気に首を大きく振って肯いた。

そのとき、奥の方から一人の警官が、急ぎ足で入ってきた。

「検事どのに申上げます。只今、正木署長からお電話でございます。玉屋邸から懸けて参っとります」

検事は、その声に席を立っていった。帆村は、引返そうとする警官をつかまえて、莨を一本所望した。警官はバットの箱ごと帆村の手に渡して、アタフタと検事の後を追っていった。

帆村は、バットを一本ぬきだして口に咥えた。そして燐寸を求めてあたりを見まわしたが、このとき室の隅に、立たせられている鴨下カオルと上原山治の姿に気がついた。

「おお上原さん、燐寸をお持ちじゃありませんか」

と、帆村はその方へ近づいていった。

張り番の警官の方が愕いて、ポケットから燐寸を押しだして、帆村の方へさしだしたけれど、帆村はそれに気がつかないらしく、

「いや、どうもすみません」

と、上原青年の貸して呉れた燐寸を手にとった。