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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

「ちょっと会ってみたいが――」

「そんなら、扉を叩いてみまっさ」

警官が、なんだか合図らしい叩き様で、扉をドンドンドン、ドンドンと叩いた。そして主人の名を大声で呼んでいると、やがて扉の向うで微かながら、これに応える総一郎の喚き声があった。

「――さっき断っときましたやろ。もう叩いたりせんといておくれやす。そのたんびに心臓がワクワクして、蠅男にやられるよりも前に心臓麻痺になりますがな」

主人公は、心細いことを云って、脅えきっていた。正木署長は検事に発声をうながしたが、村松はかぶりを振ってもうその用のないことを示した。で、署長が代って、

「――私は署長の正木だすがなア、なにも変ったことはあらしまへんか」

すると中からは、総一郎の元気な声で、

「ああ署長さんでっか。えろう失礼しましたな。今のところ、何も変りはあらしまへん。しかし署長さん。殺人予告の二十四時間目というと午後十二時やさかい、もうあと三十分ほどだすなア」

「そう――ちょっと待ちなはれ。ウム、今は十一時三十五分やから――ええ御主人、もうあと二十五分の辛抱だす」

「あと二十五分でも、危いさかい、すぐには警戒を解いて貰うたらあきまへんぜ。