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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

但しそれは警官の自白によって、僅か一、二分の間だったという。その間だけはハッキリ分らないが、その外の時間に於ては、この扉は被害者総一郎が内側から錠を下ろしたままで、誰も出入しなかったといえる。では外にこの部屋への入口はあるかというのに、人間の通れそうなところは只の一個所もない。それは被害者総一郎が「蠅男」の忍びこんでくるのを懼れて、入口以外の扉も窓もすっかり釘づけにして入れなくしてしまったからだ。

ただ一つ帆村は変なものを発見していた。それは天井の方から紙を貼りつけて穴をふさいであった。しかるに事件後には、その穴がポッカリと四角形に明いていたのであった。紙はなにか鋭利な刃物でもって、穴の形なりに三方を切り裂かれ、一方の縁でもってダラリと天井から下っていた。これは一体何を意味するのであろうか。

その穴は一升桝ぐらいの四角い穴だったから、そこから普通の人間は出入することは出来ない。小さい猿なら入れぬこともなかったが、よしや猿が入ってきたとしても、猿がよく被害者総一郎の頭に鋭い兇器をつきこんだり、それから二間も上にある綱を結んで体重二十貫に近い彼を吊り下げることができるであろうか。