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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

帆村の指す方角に、人のいい消防手はチラリと目をやったが、

「さよですなア、ちょっと見てみまひょう」

といって、首にかけていた望遠鏡を慣れた手つきで取出すと、長く伸ばして、一方の眼におしあてた。

「いかがです。なにか見えるでしょう」

「さあ――ちょっと待っとくなはれ」

と、彼は望遠鏡をしきりに伸ばしたり縮めたりしていたが、そのうちに、

「――ああ、あれかもしれへん」

と、頓狂な声を出した。

「ええッ、ありましたか」

帆村は思わず、消防手の肩に手をかけた。

「三町ほど向うだす。岸姫町というところだすな。まあ、これに違いないやろ思いまっさ。ひとつ覗いてごらん」

帆村は、消防手のたすけを借りて、望遠鏡越しにその岸姫町の方をじっと眺めてみた。

「――な、見えますやろ。どえらい不細工な倉庫か病院かというような灰色の建物が見えまっしゃろ」

「ああ、これだな」

「見えましたやろ。そしたら、その屋根の上から突き出しとる幅の広い煙突をごらん。なんやしらん、セメンが一部剥がれて、赤煉瓦が出てるようだすな」

「ウン、見える見える」

「見えてでしたら、その煙突の上をごらん。煙が薄く出ていまっしゃろ、茶色の煙が……」