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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
――密室に煙のように出入することの出来る背丈八尺の怪物!
「蠅男」を勘定から出すと、イヤどうも何といってよいか分らぬ恐ろしい妖怪変化となる。果してこんな恐ろしい「蠅男」なるものが、文化華と咲く一千九百三十七年に住んでいるのであろうか。
帆村は、彼が糸子の傍に佇立していることさえ忘れて、彼のみが知る恐ろしさに唯、呆然としていた。
宝塚の一銭活動写真
それから二日のちのことだった。帆村荘六はただひとりで、宝塚の新温泉附近を歩いていた。
空は珍らしくカラリと晴れあがり、そして暖くてまるで春のようであった。冬の最中とはいえ真青に常緑樹の繁った山々、それから磧の白い砂、ぬくぬくとした日ざし――帆村はすっかりいい気持になって、ブラブラと橋の上を歩いていった。これが兇悪「蠅男」の跳梁する大阪市と程遠からぬ地続きなのであろうかと、分りきったことがたいへん不思議に思われて仕方がなかった。
新温泉の桃色に塗られた高い甍が、明るく陽に照らされている。彼は子供の時分よく、書生に連れられて、この新温泉に来たものであった。彼はそこの遊戯場にあったさまざまな珍らしいカラクリや室内遊戯に、たまらない魅力を感じたものであった。