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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

帆村はなるべく目立たないように、新温泉の前をあっちへ行ったり、こっちへ行ったりした。そして狙う二人の男女が、新温泉の前をずっと奥の方へ歩いてゆくのを遂に発見した。彼は鼻をクスリと云わせて、旅館のどてらに懐手といういでたちで、静かに追跡を始めたのだった。

二人の男女はクネクネした道をズンズン歩き続けた。帆村は巧みに二人の姿を見失わないで、後からブラリブラリとついていった。その間にも彼は、池谷医師の連れの美人が誰の顔に似ているかを思い出そうと努めた。ところが、殆んど分っているようでいて、なかなか思い出せないのであった。丸顔の女を、何処で見たのだろう。前に歩いていた二人の男女の姿が、急に道の上から消えた。

「呀ッ、どこへ行ったろう」

帆村は先に見える辻までドンドン駈けだしてみたけれど、どの方角にも二人の姿はなかった。最後のところまで行ってとうとう巧く撒かれてしまったか、残念なと思いながら引返してくる帆村の目に、傍の大きな文化住宅の門標が映った。瀟洒な建物には似合わぬ鉄門に、掲げてある小さい門標には「池谷控家」の四字が青銅の浮き彫りに刻みつけてあった。

「うむ、ここへ這入ったんだな」