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ゆくえふめいのしょじょさく
行方不明の処女作
宮本 百合子
「婦人文芸」1935(昭和10)年3月号
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,916 字 · 6 页
だが母はまた母の関心事があって、いつもそういう私の元禄袖の後姿だけは見て、座敷を出ればもう忘れて立ち働いたりそれなり外出したりしたのだろうと想像される。
小学校に入れた時からもう六年になるのを心待ちにし、小学でも出たらこうと一家の生計と結びつけて、その子の身のふりかたを考え、成長を見守っている勤労者の家庭の中での大人と子供との関係と違うところがそこにある。私は、その点に今は社会的な意味を見出し、回顧するのである。
『中央公論』に処女作として発表された「貧しき人々の群」は、十七から十八にかけて書かれたものであり、私はそれを書いていた時、それを活字にするなどということについては思ってもいなかった。祖母が福島県の寒村に住んでいて、私は殆ど毎年夏休みはそちらで、裸足で、どこの百姓家の土間へも、鶏にくっついて入って行くような暮しかたをした。その間に見た農村の生活が強烈な印象を与え、自然発生的に書いたのであった。はじめ「農村」という題で三百枚ほど書き、例によって手製の表紙をつけて綴じて持っていたのを、また気のむくままに書き直した。最後の一句を書き終ったのは、夜更けであったが、私は自身の感動を抑えることが出来ず、父と母とが寝ているところへ原稿をもって侵入して行った。