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ゆくえふめいのしょじょさく
行方不明の処女作
宮本 百合子
「婦人文芸」1935(昭和10)年3月号
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,916 字 · 6 页
そして、母に読め読めと云い、それを読み了ったら母も涙をこぼしたのを覚えている。雑誌には周囲のものの意志で載るようになった。原稿料をもらった時は、どちらかというとびっくりした。自分が原稿料等というものをとれると思っていなかったのであった。
処女作が発表された当時、年はひどく若いし、当然小説そのものにしろ自然発生的にしか書けない時であったから、いろいろに云われ、注目されるのが苦痛であった。特に、自分としては心にもないポーズを、母などが対外的にやるようなことが起って、嬉しさより苦痛と不安とが次第に加わった。
当時私は文学的な影響としては最も多くトルストイの翻訳から学びもし、模倣もしていた。「コサック」や「アンナ・カレニナ」など、今日思出しても新鮮な熱情をもってよんだのであったが、ここに一つ実におかしいことがある。私の公的処女作というべきその「貧しき人々の群」の中には、ところどころで作者がやみ難い人道主義的感激を「子供等よ!」という農民への呼びかけで表現している。また「わが兄弟」という言葉でも呼んでいる。それは、まさしく当時の私の心魂をつかんで燃え立たしていたトルストイの翻訳の中にある文句なのであったが、それから十数年後、ソヴェト同盟へ行って見たら、どうだろう! 直訳文のままながらも私の感情を表現するものとして