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まちはふるさと
街はふるさと
「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页
しかし何一つ思い当るものはなかった。
第一、何かを思い当て得るような根拠ある思考力を自覚することすらもできない。なんとなく空転し、いつまでも空虚なものを自覚しうるだけである。
もしも、何か思い当ることがあるとすれば、一山のマッチが昨日から思い当っているだけなのだ。それに限定されているだけで、それ以外へ閃く思考の自由すらも失っているかのようだ。
「なんのために灰皿を買ったんだろう。タバコをすうようになったのかしら? それとも、来客のためだろうか?」
マッチに限定された思考力は、そんなことだけ考えていた。彼はピンクの小さな灰皿を手にとって、空転する頭をもてあましていた。
「とにかく、礼子さんに会ってみよう」
彼はあきらめて立ち上った。
十
バーで礼子に会った。放二の来意をきくと、皆まで言わせず、礼子は彼を近所の喫茶店へさそった。
「なんですッて? 一山のウチのマッチ?」
礼子は笑った。
「そうね。いらッしゃるたび、テーブルのマッチはきッと持ってお帰りですのよ。あのお店は各テーブルに必ず二ツずつのマッチを置いとく習慣なんです。なんとなく持ち帰って、お使いにならなかったのね」