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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

板戸に心ばり棒を下して立ち去った。

エンゼルが急に冷淡になったのは、ここ四、五日のことである。そして旅行から帰ってくると、記代子に一言の言葉もかけずに、いきなり、閉じこめてしまったのである。

記代子はわけが分らなかった。子分がカン違いして、部屋をまちがえたのだろう。エンゼルは、自分がこんな部屋へ入れられて、心ばり棒で閉じこめられていることを知らないに相違ない。知っていて黙っている筈はあり得ない。

記代子は戸をたたいた。

「エンジェル! エンジェル!」

力いっばいの声をはりあげて、叫んだ。その声は、塀の外までは届かなくとも、この家中には鳴り響いた筈である。心ばり棒を外して現れたのは、エンゼルではなくて、子分であった。いきなり一つ、ぶんなぐって、

「バカヤロー、兄貴はヒルネができなくって、怒っているぞ。ぶんなぐられないようにしろ。兄貴に愛想づかしをされたんだから」

睨みつけて、戸をしめてしまった。昼めしには、お握りを二つくれただけであった。

格子窓の向うに、便所の手洗いの窓が見えた。ときどき、子分がその窓から、こッちをのぞいた。それを見ると、寒気がするほど不快で、思わず顔を隠したが、エンゼルもきっとそこへ姿を見せるに相違ないと思うと、窓際から動くことができなかった。