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まちはふるさと
街はふるさと
「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页
野良猫が預金していたことをおかしいとお思いになるでしょう。私もはずかしかったのです。
野良猫にも、夢があったのです。ですが、どんな夢だか、おききにならないで下さい。自分でも知らないことなんです。夢というよりも、もっと実際的な不安だったかも知れません。いつまでもこうしていられないということ、いつか兄さんにお別れする時がくるだろうということ、そのときを考えてのことでしたが、兄さんとお別れしたあとでも、何やかやして生きるつもりの夢はあったのが今はフシギでございます。
私が何より怖れていたことは、兄さんがおなくなりになる前に、私の今後の生き方について指図なさりはしないかということでした。めったになかったことですが、まれに兄さんが私の名をおよびになると、その怖しさで、私の胸はドキドキするのでした。私はいつも何食わぬ顔でニコニコと兄さんのお側についていましたが、ただその一つの怖れのためにいつも胸をいためていたのです。ですが兄さんは、やっぱり何のお指図もなさらずに、ねむるよりも安らかに、息をおひきとりでした。かすかに笑いながら――ウソではありません。きっと生きている私たちのことがおかしかったのでしょう。