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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

君には人のイノチをとるものが、そなわっているのかも知れないな」

青木はしみじみ呟いた。

「仲よくしようよ。オレもイノチをすてる時は、ここへくるかも知れないぜ。そのときは、どこの門もふさがってるんだ。ここの門だけ開いてるような気がするな」

礼子の門も、梶せつ子の門も、みんな閉じているだろう。地獄の門も、悲しみの門も、とじている。ここは何で門だろう?

死の門? イノチの門? イヤ、もっと茫漠としたものだ。雑沓の跫音だけのような、いつもザワザワと跫音だけがくぐる門。無関心、無の門。

せつない思いがこみあげた。

「オレが何者かッてことを、君がきくことはないだろうがね。君だけが、誰より知ってるはずじゃないか、オレが誰かということをさ。跫音にすぎないですよ。ザワザワと群れて通りすぎて行くその一つの跫音にすぎんじゃないですか」

ルミ子は青木のニヒリズムの相手にはならず、ネマキに着代えながら、詩集を朗読するように、

「跫音に戸籍を問えば、跫音の答えて曰く……それから?」

「ここだけは戸籍のいらないところだろう」

「ここで死んでごらん。警察が私にきくのは、跫音の戸籍だけ。ほかのことは何もきかない」