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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

「さア、のんで。放二さん。記代子さんもよ。なんとか祝辞おッしゃいよ。あなた方」

せつ子の浮きたつ様を放二はまぶしそうにうけとめて笑った。

「あんまり幸福そうですから、不安になるんです」

「幸福すぎちゃアいけないの?」

「それに越したことはないのですけど、マサカの時を考えて、程々にしておくことが大切だろうと思うのです」

「ずいぶんジミだわね。あなた、いくつになったの」

「ぼくは無邪気になれないのです」

「からかわれてるみたいね。坊やにませたことを云われるのは、変なものだわよ」

目で同意をもとめると、記代子も笑って、こたえた。そのキッカケを捉えて、せつ子は話題を変えて、

「わが社の出版計画の一つに大庭先生の全集を考えてるのですけど、どうかしら。放二さんが引きうけて下さるなら、出版部長におむかえしたいのよ。記代子さんにもよ。お力添え、おたのみするわ。お二人をわが社の幹部社員におむかえするつもりよ」

放二はしばらく返事につまっていたが、

「先生と出版書肆とのツナガリには古い来歴があるらしくて、ぼくなどにはその片鱗も分っておりません。ぼくの力では、先生に原稿をお依頼するのも容易ではないのですから、全集出版のことなどは、とても力が及びかねると思います」