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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

「マジメの時は?」

「ぼくは、まだ、人生で何が尊いものだか、わからないのです」

「せいぜい、長生きなさい」

せつ子はバカらしくなったが、気持を変えて、

「大庭先生は短気の方?」

「いいえ。むしろ、寛大です」

「しかし、皮肉家ね」

「いいえ。いたわりの心が特に先生の長所だと思います」

「私のこと、どんな風に考えてらッしゃるらしいの?」

「今のところ白紙だろうと思いますが」

放二は考えて、

「ありのままのあなたは、先生の一番近い距離にいる女の方だと思うのですが」

「一番近い距離って、なんのこと」

「魂のふれあう位置です」

別れて去ろうとすると、放二がよびとめた。

「小さな反撥や身構えはいけないと思います。ほんとうの奥底に通じあう道をはばみます」

「なんのこと?」

せつ子の目が光った。名刺の件を知っているのかと思ったのだ。せつ子の鋭い目の色を見ると、放二は、あきらめたように、目をふせた。

せつ子は車をひろって、招待の手筈のために駈けまわった。爽快な闘志がたかぶり、身がひきしまるようである。

六

長平は放二の案内で招待の席へ送りこまれた。通されたのは大広間だが、外はまだ明るいのに、雨戸がしめきってある。