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うらぎり

裏切り

坂口 安吾

「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页

青空文庫

日野と八千代サンの一件というのはつまりその晩の出来事です。

トオサンにしてみれば、こんな偶然がもとで八千代サンが日野とネンゴロになってくれた方がむしろ自分を愛してくれるよりも八千代サンの身のためだぐらいの気持だったかも知れません。宿の番頭や女中に、

「この若い二人をたのむよ!」

と云ったそうです。そんなわけで二人は一つブトンに枕二つ並べて寝かせられることになりました。

「弱ったなア。フトン二ツにしてもらおうかね」

「平気じゃないの。電車の一ツ座席へ二人一しょに坐って来たじゃないの」

「それとこれとはちょッとちがうと思うがなア。ま、いいや。キミさえ平気なら、ぼくだって、こだわらないよ」

さて寝てみると、日野はくすぐったくて我慢ができません。八千代サンの平気じゃないのという言葉はどんなことをしたって平気じゃないかという意味のように理解せざるを得なくなりましたから、そッと手を動かして大胆に彼女のカラダにさわりましたところが、いきなり蹴とばされ、つづいて八千代サンはどッと向き直って力いっぱい日野のほッぺたを殴りつけたそうです。日野は慌ててフトンの中からとびだして洋服をきました。