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さいぎょうのめ
西行の眼
下村 湖人
「青年」1933(昭和8)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,096 字 · 7 页
考えて見ると、今の日本は、文覚の徒が多過ぎる時代である。右を見ても、左を見ても、小文覚がうようよしている。それらのある者は、どこやらの赤い法衣を着ており、またある者は、どこやらの黒い法衣を着ている。そして彼らの眼は、一ように火のように燃え立って、あたりにいる者の頭を叩き割ろうとしている。彼等は静けさを好まない。静かに中道を歩もうとする者でさえ、かれらの怒りをさけることが出来ないのである。
こうした時世では、西行の眼を持つ人が、一人でも多く現われることが望ましい。
無論、今の世に、西行の眼を持つ人が全くいないのではない。しかし、悲しいことには、えせ文覚の徒があまりに多過ぎ、しかも彼等は西行の眼をしみじみと見ようとはしない。文覚ほどの修行を積んでいない彼等は、非常に無知であり、しかも卑怯である。彼等は西行の眼に十分ものをいわせるまえに、はやくも敵呼ばわりをする。そして背後から、西行の眼をもった人たちの頭を叩き割ろうと企らむのである。
だから、西行の眼はもっともっと多くなければならない。でなければ、尊い人間の道がすたれる。日本はこの数年来、似て非なる文覚の徒の出現によって、すでにある程度の修羅場と化してしまった。