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『さいゆうき』のゆめ
『西遊記』の夢
中谷 宇吉郎
「文藝春秋」1943(昭和18)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,947 字 · 18 页
の世界からは次第に離れて行った。そしてその反動かどうかは分らないが、物理学などを専攻することになってしまった。
その後は、当然のことながら、長い間『西遊記』とは縁のない生活をしていた。ところが二年ほど前に思わぬところで、ひょっくり本物の八戒に出会ったのにはちょっと驚いた。それは正しく本物の八戒と言ってよいものなのである。
紀元二千六百年記念に出版された『西域画聚成』を見ているうちのことであった。燉煌出土の降魔図の中に八戒がいたのである。中央の岩上に結跏趺坐した釈尊の周囲に、怪奇な魔衆が群り集っている、空想の限りをっくした絵である。その中に魔衆の一人として、長い嘴を突き出した八戒が、熊手をふりあげて、強くないくせに威張った顔をして立っていた。八戒のくせに裾長の着物を着て、金の冠かなんかをかぶって、不器用に熊手を振りかぶっている。子供の頃から頭の中にある、悪いことばかりしていて、その割に悪めない八戒の姿そのままがひょっくり出て来たので、大変なつかしかった。
この絵は宋初のものとされているので、本当の玄奘三蔵法師が、唐の太宗の貞観三年に長安の都を辞して、遥々印度への旅についた頃から見ると、三百年くらいも後に描かれたことになる。