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『さいゆうき』のゆめ

『西遊記』の夢

中谷 宇吉郎

「文藝春秋」1943(昭和18)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,947 字 · 18 页

青空文庫

しかし『西遊記』の書かれたと推定されている宋末元初の頃から見ると、ずっと旧いものである。古来白骨人の収むる無しとうたわれた青海のほとりには、その頃丁度八戒などもいたのであろう。審美書院の自慢の木版摺の色でみると、千年の間土に埋れていて、今また陽光を浴びた八戒は、鮮かな朱と黄色との着物を着て、一、二年前に描かれたような色彩のまま保存されていたのである。

八戒の出現と前後して、スタインの『中央アジヤ踏査記』を読むに到って、私の『西遊記』の夢は益々本物になって来た。スタインの専門的な探険報告や燉煌絵画のような浩瀚なものには手が出ないが、この『踏査記』のような手軽なものに、彼の全仕事が纏められているのは、大変有難かった。それに風間氏の重厚な訳もよかった。

スタインは一九〇〇年から一九一六年にわたって、前後三回支那西域タクラマカンの荒野に発掘の旅をつづけた。それは古代のいわゆる絹路を確かめ、また玄奘法師やマルコ・ポーロの通った道を、現在の地図の上に辿るのが主な目的であった。

支那の奥地、今重慶政権が、ソ聯との連絡に懸命の努力をつくしている西北ルートの土地は、カラコラムの氷河の氷がとけて流れ出る僅かの流域をのぞいては、殆んど死の世界である。