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ふくめんのぶとうしゃ

覆面の舞踏者

江戸川 乱歩

「婦人の国」新潮社、1926(大正15)年1~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,827 字 · 30 页

青空文庫

確に会員に相違ない十人近くの男達は、まるで初めて逢った人のように、脊恰好から、歩き振りから、少しも見覚えがないのです。云うまでもなく顔面は、一様の黒いマスクに隠されて、見分けるべくもありません。

外の人は兎も角、古くからの友達の井上次郎だけは、いかにうまく変装したからといって、見分けられぬ筈はあるまいと、瞳をこらして物色するのですが、私のあとから次々に部屋へ入って来た人達の内にも、それらしいのは見当りません。それはまあ、何という不思議な晩であったことでしょう。いぶし銀のようにくすんだ色の広間の中に、鈍く光った寄木細工の床の上に、種々様々の変装をこらし、お揃いのマスクをはめた十七人の男と、十七人の女が、ムッツリと黙り込んだまま、今にも何事か奇怪な出来事の起るのを待設けでもするように、ある者は静止し、ある者は蠢いているのです。

こんな風に申しますと、読者諸君は、西洋の仮装舞踏会を聯想されるかも知れませんが、決してそうではないのです。部屋は洋室であり、人々は大体洋装をしてはいましたけれど、その部屋が日本人の邸宅の洋室であり、その人々が洋装をした日本人であるように、全体の調子が、非常に日本的で、西洋の仮装舞踏会などとはまるで違った感じのものでありました。