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おやがすてられるせそう

親が捨てられる世相

坂口 安吾

「週刊朝日 春季増刊号」1952(昭和27)年3月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,326 字 · 15 页

青空文庫

彼は決断がつかなかった。とつおいつ、という思案の様はこれを言うのであろうが、私には彼のギラギラした執念の目が怖しいものに見えた。飛行機も、バクダンも、焼跡も、焼けた屍体も、これほどナマグサイものには見えなかった。負け戦のドタン場のこの時になっても、ただ老後を考えるのみの彼の執念に、当時はその同感ももてなかった。

思えば彼は一生の設計を戦争でフイにし、戦後の設計にも一足踏みかけながら、これも逃がしてしまった。彼としてはギリギリに思いつめた人生であったと云えよう。

平凡でマトモで穏健着実だったこのような老人たちの何パーセントかが、戦後に至って生まれてはじめてのヤブレカブレ、手のつけられないジジイになっても憎むわけにはいかない。罪は戦争にあったことは実にハッキリしているのだ。

*

文士だの芸能人というものは、サラリーマンのように着実でマトモな一生の設計を立てているものではない。収入がサラリーマンのようにキチンキチンとしていないし、明日があまりにも不安定で設計の立てようがないものだ。だから、いつどうなっても構わねえや、というような心構えも芸術家の人生設計に於ては背骨の一ツとなるべきものだ。