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しんらん

親鸞

三木 清

「展望」1946(昭和21)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,550 字 · 73 页

青空文庫

本願はつねに歴史的現実(機)に相応するところの衆生済度の愛の願いである。ひとは邪道を離れて仏門に入る。そのとき彼がまず為そうとすることは何であるか。もろもろの善を行ない、もろもろの功徳を積むことである。かように善を行ない、功徳を積むのでなければ浄土往生は不可能であると考える故である。彼は自己の修めた万善万行によって、それが原因となり、その結果として浄土往生が遂げられると考える。これは理義明白である。これよりも明白な理義はない。これ以外に理義はあり得ないもののごとくである。彼の発願はきわめて真面目である。彼は自己の力のあらんかぎり善行を修め、功徳を積もうとする。彼の努力はきわめて真面目である。しかし彼が真面目であればあるだけ、彼が努力すれば努力するだけ、彼は自己の虚しさ、自己の偽りを感ぜざるを得ない。外から見れば一点の非の打ちどころのない生活にも、内に省みるとき虚偽が潜んでいることが自覚せられる。他人の不幸を憐んで物施しをする者に、自己の優越を誇り、他人の不幸を喜ぶ心が裏にないか。心において一度も窃盗をしたことのない者、姦淫をしたことのない者がない。