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しんらんしょうにんについて
親鸞聖人について
吉川 英治
「毎日新聞」1962(昭和37)年10月1日号から9回に分けて連載
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,038 字 · 29 页
おそらくは人間同士どうしてこう殺し合いが好きなものか、たのしめるこの春夏秋冬を、どうしてたのしまずにいがみ合い、刃物ばかりきらめかしているのか、血みどろをずいぶん見ておられたと思うのです。
フランスのリシェ(注=シャルル・リシェ。生理学者、ノーベル医学賞受賞)という人が、第一次大戦後に出しました「人間愚かなるもの」という本がありますが、この本の中でリシェが、人間はどうして果てしもなく、にくみ合い、殺し合うことをやってきたか。いまや人間は、にくまないものをもにくめないものをも、あえて殺すような戦争をやるまでに堕落してきた。おそらくは、文明は、科学は、もっと進歩するだろうが、人間の堕落は、にくまないものをも大量殺戮するその残虐さと、おろかしさを、もっとやるのではないか、というふうなことを書いています。
それを、もっと小さくしたケース、バックをもっと小さくしたようなものが、あの親鸞の若い時代ではなかったでしょうか。親鸞も、同じように、人間どうしてこうおろかなのか。その宿業をなげき、もだえていたに違いないと思います。いってみれば、人間のもつ闘争本能、この闘争本能についても、親鸞はずいぶん考えられ、悩まれたのではないでしょうか。