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どくしょへんれき

読書遍歴

三木 清

「文芸」1941(昭和16)年6月~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,120 字 · 72 页

青空文庫

ウィーンからの汽車の中で、私は初めて彼の『インモラリスト』を繙き、何か全く新しいものに接した気がした。マールブルクに帰ってきて、レーヴィット氏にその話をすると、この博識なドクトルはジードについていろいろ話してくれた。そのとき氏からドイツにおける最もすぐれたフランス研究家として教えられた名にエルンスト・クルチウスがある。クルチウスの新著の『バルザック』をぜひ読めと勧められたので、買って読んでみると、なるほど面白かった。その後さらにクルチウスの『新ヨーロッパにおけるフランス精神』という本を見る機会があったが、これもよい本であったように思う。

パリにいた小林市太郎君に下宿の世話を頼んでおいて、ケルンを通ってパリへ出たのは秋の初めであった。小林君は私と同様京都の哲学科の出身なのでかねて知っていたが、現在は大阪の美術館にいて、支那美術の研究を専門にしている。最初パリには長く滞在するつもりでなかった。すでに二か年半をドイツで過していたので、パリには三、四か月もいて、そろそろ帰国の仕度をしなければならないだろうと考えていた。それがとうとう一か年の滞在になってしまった。