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どくしょへんれき

読書遍歴

三木 清

「文芸」1941(昭和16)年6月~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,120 字 · 72 页

青空文庫

大都会というものは孤独なものである。孤独を求めるなら大都会のまんなかである。パリの街ではいつも多くの日本人を見た。しかし私が親しくしたのは小林君くらいのもので、それも下宿が離れていたため頻繁には会わなかった。そのほかパリで初めて知り合った友人といえば芹沢光治良君くらいのものである。もっともパリはヨーロッパへ行った者が一度は訪ねる所なので、偶然出会った人は多く、斎藤茂吉氏とか板垣鷹穂君などの名が今記憶に蘇ってくる。エトワルの近くにあった私の下宿は一時、安倍能成氏や速水滉先生の下宿になったこともある。京城大学に法文学部が出来た頃で、そこの教授に任ぜられた人々が洋行した時代であったのである。私の下宿にいられた間、安倍さんはしきりにオイケンの『大思想家の人生観』の改訳をやっていられたことを思い出す。船の中で片付けるつもりであったのが出来なかったから、ということであった。

初めは長く滞在するつもりでなかったので、私は今度は大学に席を置かなかった。パリ見物の傍ら、私は小学校の女の先生を頼んでフランス語の日用会話の勉強を続けた。耳の練習に少し自信ができたので、これも見物の一つのつもりでソルボンヌの公開講義に出掛けて、哲学者のブランシュヴィク教授を数回聴いたことがある。